『 「家庭のパスワード」及びそれに伴う「色彩区画化計画」 』




■ 構想の背景
過去、現行とは異なるタイプの作品を屋根に展示してきました。その際、第三者の
率直な反応として作品よりも「あの家にはどんな人たちが住んでいるのだろう?」
といった本来見えない屋根下の住人自体にそのまなざしが向けられていることに
気付かされました。なるほど、「一つ屋根の下」というフレーズもあるように風雨から
私たちを守る屋根は、家屋の外部のみならず、何かしら家庭を映し出すシンボル
として捉えられてもいます。こうした認識から住人が制作過程に参加できる形態の
作品案を検討すると共に、実地交渉を通じて作品の設置先となる家々の連帯化を
希求した結果、『 「家庭のパスワード」及びそれに伴う「色彩区画化計画」 』という
構想へと展開するに至りました。


 「家庭のパスワード」の説明
私たちが普段、銀行等で使用しているパスワードという4桁の数字の組み合わせの
裏には、たいてい何らかのヒントとなる作意が込められているものです。もっとも、
カード作成時に限っては利便上、覚えやすさを優先し、本人に関する誕生日や電話
番号等になりがちですが、そのようなパスワードの作意の多くも個人レベルの域に
止まっているのが実状です。そこで私は、個人を取り巻く最も身近な集団である家庭
にその作意を推し広げるべく、“家族の意思によって家庭をパスワード化する”という
方法を採り、一連の制作プロセスの共有を求めます。他方、こうして完成した作品を
屋根に展示することによって、パスワード本来の機能を無化することになりますが、
転じて家族にしか理解できないパスワードの作意がその場に謎として浮び上がって
くるでしょう。つまり、私たちが日常、家屋の外部として目にする屋根からは伺い知る
ことができない、家庭という私的な空間の内面(におい)を表出させることを試みます。


「色彩区画化計画」の説明
「家庭のパスワード」があくまで個々の家庭を対象にした内容であることから点在して
しまう“複数の家庭を色彩による区画でネットワークさせる”計画です。こうした意味で
JR大阪環状線の形状を色環というある種の「制度」を暗示するモデルとして構築する
ことにより対比的に行政区画の下での共生についての意識化を図ります。なお、色環
は、その成立に必要な最小色数と考えられる計6色(*赤・橙・黄・緑・青・紫)から構成
しています。したがって、色彩による6区画を設けるに際して同線全周21.7kmの計19駅
をポイントに、最大格差1kmの範囲内で6分割することにしました。≫ MAP


 構想の意図
この『 「家庭のパスワード」及びそれに伴う「色彩区画化計画」 』を通して、来るべき
コード化時代を反映させた「家族広告」という側面を示唆しつつも、あらゆるゆる面で
システム化が浸透している現代社会とその状況下における家庭の内面(におい)との
相対的な関係を垣間見ることによって考察を深め、各人へ問題提起するものです。

(原文作成:1997年)

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